北風と太陽と補足説明 (No.47)

北風と太陽と補足説明 (No.47)


2003.08.15

イソップ物語の「北風と太陽」のお話はご存知だと思います。
冬、北風と太陽が旅人のマントを脱がせると言う勝負をする。と言うお話です。
北風が力任せに吹きまくるのですが、いくら力を入れても旅人はますます寒くなるのでマントを脱ぎません。そこで、太陽がぽかぽかと暖かい春の日差しで旅人のマントを脱がせて太陽の勝ち。となる物語です。

私の仕事はいつも「太陽」であるように心がけています。
「力」や「お金」がいくらあったとしてもそれで人の心は動かないと信じているからです。そして、実際に「力」や「お金」を無意識に使って中国で企業を興し、中国人を使っても不思議なものでその無意識の心はその下で働く者たちには解るものです。

会社と言うものは多くの人が集まって機能しています。それぞれの人たちがバラバラに動いていてはできるものもできなくなってしまいます。ですから、「人を動かす」と言う事は不可欠なのですがその際に重要なのは人の「心」を動かす事だと感じています。

中国にある日系企業で働く中国人たちは「日本人にはお金がある」と思っていますしその日本人が上司として権力と言う「力」を振るっても仕方ない事として黙々と従います。でも、これは「心」を動かしていません。「面従腹背」とでも言うのでしょうか表面的には服従していても「心」が動かされていませんから心の中では服従どころか反発すら抱いています。ちょうど、北風が強く吹いてもマントをしっかり着ている旅人のように。

何かちょっとした指示を出す。これこれの調査を依頼する。
普段から「心」を意識している日本人が指示や依頼をするのと、それを意識していない日本人が指示や依頼をするのとでは天と地ほどの差があるのではないでしょうか?

このように話すと「そんな事では甘やかす事になる」と言う反論が出ると思います。そうなんです。「叱る事ができない」「嫌われたくない」と言う事からただ表面的に「技術」として「太陽」のふりをしてもそれは逆効果です。
いつもニコニコするのはいい事ですし、優しく接する事ももちろんいい事なのですがそれが「うわべ」だけのもので中身が伴っていなかったとしたら中国人は敏感に察知してマントを脱がせる。つまり、「心」を動かす事はできないでしょう。「甘やかす事になる」と言うご意見はこう言った背景を捉えての事だと思います。
では、どうすればいいのか?「太陽」として適切な効果を発揮できるのは、「圧倒的な差」がなければ意味がないと言う事だと思います。

「圧倒的な差」とは何か。

例えば北風と太陽の例をとると同じように勝負をして旅人のマントを脱がそうとします。そして条件を厳しくします。例えば北極や南極のような土地での勝負だとします。すると、少々太陽が日差しを投げかけてもマントを脱がせる事はできないでしょう。本当に春のように、そしてマントを着ていると暑くなるような状況でしか旅人はマントを脱がないでしょう。つまり、同じ「太陽」でも「圧倒的な力の差」がなければ単なるおとぎ話になるのではないでしょうか?

実際の現場で見てみると、例えば技術職の場合、中国人との差が「圧倒的な差」がある場合だけ、例え中国語ができなくても、少々時間はかかるかも知れませんがちょうど太陽が旅人のマントを脱がせるように中国人の「心」を捉え「心」を動かす事ができると思うのです。
もし、技術力や知識が「多少の差」だけなら言葉の障害もある外国での事ですからなかなか中国人の「心」を捉える事はできないのではないでしょうか?

それでも技術の世界はまだ相互理解が得やすいでしょう。
言葉が通じなくても実際に行動する事で、例えば製品のアイデアを実際に製品化する事でその人の実力を説明する事ができます。では、「管理部門」の場合はどうでしょうか?世間で言う「文科系の世界」では答えがあってないようなものです。色々な考え方が許されます。このような世界では相互理解の為の方法は全く違うものになるでしょう。

ここに双子がいるとします。どちらも読書家で読んでいる本も全く同じだとします。この双子が得た「知識」は全く同じです。でも、理解度はどうでしょう?双子ですからまだ似ているかも知れませんが、それでも理解は人それぞれではないでしょうか?さらに二人とも実践家で読んだ事をすぐ実践し自己の向上に努めているとします。この場合、二人の実力は全く同じでしょうか?

私はいくら双子であって、読書した内容や量が同じであっても理解の仕方に違いがあるでしょうし、実践に移す時のやり方も違うと思うのです。
一人は「知識」を十分に自分のものにせず、ただ表面的に真似しているだけ。もう一人は「知識」を自らの「知恵」とし、完全に自分のものにした後、現場の状況を十分に観察、理解した上で実践に移す。この違いは「目に見えるもの」と「目に見えないもの」の差だと思います。

「目に見えるもの」とは読書の量など。「目に見えないもの」は「理解」であったり「性格」であったり「仕事の進め方」であったりします。

ではこの「文科系」に技術職のような「理科系」のレベルの差はないのでしょうか?いえ、レベルの差や違いはやはりあります。でも、この差や違いは解りにくい。日本人同士でも判別するのは難しいでしょう。もともと判別が難しい世界の話の上に、現在のように情報が豊富な時代には本当は知識だけで知恵がないのに三国時代の智将:諸葛孔明の本を読み「孔明ならこうする」とまるで自分が諸葛孔明になったかのように振る舞う事もできます。「管理部門」のような「文科系」の仕事ではそのレベルに差があるけれどそれが判別しにくい。それではどうしたらいいのでしょうか?

具体的な方法は色々あるでしょうが、中国の現場では言葉の障壁があるから「発言」ではなく「なんとなく感じる」と思うのです。
こんな経験はありませんか?
中国人と話をしている時、通訳を通しての会話になり中国語は解らないのだけれど何となく中国人の言いたい事が解ったり、じっと相手の目を見ているとその人の性格などが解ったような気がすると言う経験です。
私は中国語が解るから言葉に邪魔されてしまいますが、言葉が解らない人は通訳している時間に相手を観察すると言う要素もあり言葉で伝え合う以上のコミュニケーションをしているのではないでしょうか?実際、言葉の解らない中国人はそれを敏感に感じ取るようです。

つまり、いくらたくさん本を読んで「知識」を詰め込んでそれを実践してもそれが本当の意味で「知恵」になっていないと言葉は通じなくても伝わってしまうようです。これは日本でも同じではないでしょうか?いくら偉そうな事を言っても、自分では問題ないと思っていても、周りにいる人は冷静にその人を観察し分析しちゃんとその人のレベルを理解している。だから怖いのではないでしょうか?

日本でもこの「似て非なるもの」を判別するのはまだ難しい面があると思いますが、それが中国で、となると、言葉の障壁がある為、多少の「ずれ」が生じるようです。

日本では少しの差で上司のレベルが判別され、下のものがついて来てくれるでしょうが中国では「圧倒的な差」がなければなかなか理解されない。この考え方は私の偏った考えかも知れませんが私はそのように感じます。

別に善人でなければならないと言う事はないと思います。
部下から尊敬されるような人間でなければだめだとも思いません。
ただ、「知恵」と言うレベルでは中国人より圧倒的に差がなければ意思の疎通が難しく理解しにくいと言う事情も手伝って中国人の「心」を動かすのは難しくなる事が多いようです。

何かあった時に、みんなが「困った」と思っている時に、必死に考え「知恵」を出す。その積み重ねをすれば徐々に理解してもらい、「心」を動かす事が可能になるのではないでしょうか?

考えて見れば日本でも昔からそうだったと思います。例えば徒弟制度。
弟子と師匠の間にはそれこそ「圧倒的な差」がありました。特に武道の世界では師匠と弟子の間にはそれこそ「圧倒的な差」があり、弟子が何をしようと相手になりません。例えば弟子が武器を持って師匠に挑んでも師匠は弟子を手玉に取る。それぐらい「圧倒的な差」がありました。
学校でもそうでしょう。
先生と生徒の間には「圧倒的な差」があって初めて先生は生徒から尊敬もされ生徒も「この先生から学ぶ」と言う気持ちになるのではないでしょうか?それを少しの差しかなければどうなるでしょうか?
名前だけ師匠であり先生でも「心」から尊敬されず「この人について学びたい」ともおもわないのではないでしょうか?

もちろん会社は道場ではありませんし、学校でもありません。でも、人の上に立つと言う事は同じではないでしょうか?そして、それが中国という外国で言葉の障壁があり、さらに「文科系的」と言う解りにくい分野である「管理」をしようと思うと「心」のレベルで「圧倒的な差」がなければ、多少知恵がある程度では尊敬はおろか信頼さえ得る事はできないと思います。そして、信頼してもらっていないと言う事は指示を出した所でそれが正しく伝わる事はないと考えた方がいいのではないでしょうか?

一緒に働く者同士はお互いに理解し合い信頼し合っていなければバラバラになってしまいます。そんな基本的な事が中国にある日系企業では忘れられている。そのように感じます。

日本人が中国に来て中国にある日系企業で働く。
「中国人と一緒に働く」と言う表現もありますが、給与も中国人より多い日本人スタッフですから本当の意味で「太陽」となり、しかも「心」のレベルでは「圧倒的な差」を持っていなければ例え中国語が中国人のようにしゃべる事ができたとしても中国人の上に立って「管理する」なんて夢のまた夢ではないでしょうか?  


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YAMAOKA yoshinori

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