
No.11 2001.09.28
『ニューヨーカーのやさしさ』
ここニューヨークに住んでいて一番事件を身近に感じられるのはなんといっても実際 に犠牲者と関係のあった人達がことの様子を口で伝えてくることだ。「今日も、ご主 人を事件で亡くした方が銀行に見えたのよ。なんて慰めていいかわからなかった わ。」「娘のクラスの友達のお父さんが亡くなったの。今日からクラスに出てきて普 通を装ってはいるけれども。」「今までお店に来ていた人達の何人かが最近来てない のよ。もしかしたら事件に巻き込まれたのかしらと思うといたたまれないわ。」「ご 主人が亡くなって、親戚の人が日本からすぐ来たわ。二人でモールを歩いているのを 見たわ。」 そして多くの多くの報道されなかったストーリーが入ってくる。車椅子の女性を二人 の同僚がかかげて階段を降りて行った話しは報道されたようだが、車椅子に乗ってい た男性の話しはおそらく報道されていないだろう。あるオフィスで働いていた男性は 車椅子に乗っていた。すぐに建物から出るようにアナウンスがあったとき、多くの人 が階段へ向った。ある人が階段へ向う途中、車椅子の同僚を見かけた。彼は、いっ しょに逃げようと声をかけた。しかし車椅子の彼は、「いいよ、君は先に行ってく れ。ぼくはこんなからだだからみんなに迷惑をかける。きっと誰かが助けに来るから それまでここで待っているよ。先に行ってくれ。」しかし通りがかった同僚は、「い や、ぼくもいっしょにいる。」「だめだよ。早く逃げくれ。ぼくは大丈夫だから。」 「いや、離れないよ。ここにいっしょにいるから。」会話はここまでだ。 30分後、貿易センタービルはみごとに崩れて行った。この二人を巻き込んで。この話 しはその場に居合わせたスタッフから聞いた話だ。私は涙を押さえずにはいられな かった。 マンハッタンを歩いていて、ニューヨークを歩いていて、確かに怖いと感じる人が通 る時がある。しかし私はそのたびにこの車椅子の男性のそばにいた男性のような自分 の命が亡くなるかもしれないと感じた窮地に置いても、その友のそばにいることを選 んだ心やさしい男性がニューヨーカーの中にはいることを思い出すことにしている。 人は見かけではない。
ノーラ・コーリ
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