ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia 2004.04.21
堂本かおる の 『from ハーレム』 (No.68)
「ビジュアルでハーレムの今を知る」
〜ハーレム写真集4種〜
●『ハーレム:ロスト&ファウンド』 ここ数年、ハーレムをビジュアル化した書籍、つまり写真集が静かなブームとな っている。ことの始まりは2002年に出版された『ハーレム:ロスト&ファウンド』。 ハーレムはそもそも中産階級、上流階級の白人のために造られた街なので、今でも そこかしこに古いヨーロッパの街並みを思わせるメルヘンチック(?)な家や、 凝ったゴシック様式の壮麗な建物がある。映画やドラマに登場する「ニューヨーク の裕福な白人の住居」が、じつはハーレムロケだったということも多い。 『ハーレム:ロスト&ファウンド』は、それらハーレムの目を見張るような 建築物の数々を撮影し、ハーレム在住の歴史家/地域保存家のマイケル・ヘンリー ・アダムズが詳しく解説した写真集。建築、またはハーレムの歴史に興味が ある人には貴重な一冊。 Harlem: Lost and Found by Michael Henry Adams, Paul Rocheleau Photographer: Lowery Stokes Sims $65.00 Publisher: The Monacelli Press; (October 2002) ーーーーーーーーーーーーーーー ●『ハーレムスタイル:新アーバン美学のデザイン』 上記『ハーレム:ロスト&ファウンド』『ハーレムスタイル:新アーバン美学 のデザイン』。黒人の、とくに女性が好むアフリカン・テイストのインテリア を、都会的に徹底的に洗練させた写真集。 出版された当時、メイシーズデパートではこの本とのタイアップでエスニック 調の食器をディスプレイしていた。ハーレムを訪れたことのないニューヨーカー や観光客も、この写真集と食器を買っていたのだろうか。 Harlem Style: Designing for the New Urban Aesthetic by J. Roderick N./Arango Shade (Author) $35.00 Publisher: Stewart, Tabori & Chang; (October 1, 2002) ーーーーーーーーーーーーーーー ●『スピリット・オブ・ハーレム:アメリカでもっともエキサイティングな 街のポートレイト』 2000年に『クラウン(王冠)』という写真集が出され、話題となった。教会の 日曜礼拝に出かける黒人女性は、ドレスもさることながら帽子のデザインに凝り に凝る。大きなつば、羽飾り、スパンコール、チュール……。ご自慢の 「チャーチハット」を被った女性約50人の白黒ポートレイトに、それぞれの 女性が語った帽子への愛情と情熱の短い物語を添えた写真集だ。ところが帽子 の話は予想外に奥が深く、黒人女性のたどってきた歴史や、宗教と黒人の関係性 までを含んでいる。つまり、見て楽しく、読んで味わいのある写真集だった。 その『クラウン』の作者が同じ手法でハーレムの人々を写し出したのが、昨年 末に出された『スピリット・オブ・ハーレム:アメリカでもっともエキサイティ ングな街のポートレイト』。 今回は店舗経営者、アーティスト、教会関係者、文筆家など、いずれもユニーク なハーレマイト(=ハーレムっ子)約50人のポートレイトと、それぞれの人物の ハーレムへの思いが綴られている。 ハーレマイトといっても、人種/エスニックも、年齢も、職業も、ハーレム との係わり方もさまざま。一枚一枚の写真と文章から、ハーレムの多様性を伺い 知ることができる。 ゴージャスな帽子とコート姿でハミルトン将軍の邸宅前に立つ女性の写真と、 彼女のハーレム描写: ハーレムにはすべてがあるの。 地下鉄にはトランペットを吹いている男性がいるかと思えば、1ドルを乞う者 もいる。歩道には6人のアフリカン女性がいて、ブレイズを編まないかと声を かけてくる。シャツの前をはだけ、ズボンをずりさげ、頭のなかで鳴っている 音楽に合わせて踊っている少年。ひとかたまりの男たちの側を通り過ぎれば、 「ベイビー、今日はまたきれいだね」と声がかかる。 自宅のドアから一歩踏み出したとたんに、ハーレムのすべてが私の目の前にある の。そこには美しさと詩があるのよ。 ラテ・ターナー、51歳、不動産業者 (訳:筆者) Spirit of Harlem: A Portrait of America's Most Exciting Neighborhood by Craig Marberry (Author), Michael Cunningham (Photographer) $27.50 Publisher: Doubleday; (November 18, 2003) ーーーーーーーーーーーーーー ●『せとぎわのハーレム』 今、ハーレムは再開発の真っ只中にある。そこら中で工事の音が鳴り響き、毎日 のように古い何かが取り壊され、新しい何かが建てられている。そんな新旧せめ ぎ合いのハーレムを切り取った写真集が『せとぎわのハーレム』。 フォトグラファーのアリス・アティーが自転車でハーレムを走り回って写した ものは、閉店してしまった小さな個人商店、その壁に描かれたグラフィティ、 塗装のはがれ落ちた柱、店舗の脇に生えた雑草、空き地にしゃがみ込んだ年配 の男性、眠り込んだ子どもを抱く若い母親、宿題をしている小学生。そして、 にぎやかなインストリート125丁目のHMV、ディスニーストア、通りを埋め尽くす 人ごみ。 消滅しかけているオールドハーレムと、そこに建つ古いアパートメントに昔と 同じように暮している人々。しかし彼らは、急にやってきたニューハーレムも 抵抗なく受け入れ、125丁目の大型チェーン店でショッピングを楽しんでいる。 アティーは、私が撮りたくても撮れないハーレムのリアリティを見事に撮り切っ ている。じつはアティーと私は何ヶ所か、同じ場所を撮っているのだけれど、 こちらはしょせんアマチュア、向こうはプロ。出来上がりの差をうんぬんする こと自体が間違っている。だけど、長年ハーレムを見つめてきたプロの写真家と 私が同じ視点でファインダーをのぞいていることを知ったとき、私のハーレム に対する視点は間違っていないことを確信した。 なお、ハーレム再開発について書かれている前書きも、ハーレムの現状を理解 するのに役立つ。 Harlem: On the Verge by Alice Attie, Robin D. G. Kelley (Introduction) $35.00 Publisher: W.W. Norton & Company; (September 2003) ※上記の写真集はすべて amazon.co.jp / amazon.com で購入可 ※この記事はHPにもアップしてあります。そちらには写真もあります http://www.nybct.comニューヨーク・ブラックカルチャー・トリヴィア 2004/04/21 #251
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