ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia 2003.03.06
堂本かおる の 『from ハーレム』 (No.55)
「いまだ冬のハーレム」
ふと、夏のハーレムを思い起こした。ハーレムの夏はカラフルで、に ぎやかで、初めて訪れる人にも忘れられない印象を残す。けれど冬の ハーレムにも、どこかのんびりとノスタルジックな、独特のフレイバー がある。 ハーレム135丁目に地元の人に人気のあるダイナーがある。ダイナー とは、いうなれば大衆食堂。カウンターで手早くランチを食べる人もい れば、顔なじみのウエイトレスや、カウンター席で隣り合わせた客と 延々と世間話をする人もいたり。私もここで時々食事をするし、テイク アウトのコーヒーを買うことも多い。 1月のとても寒かった日。仕事に出掛ける途中でこの店に立ち寄り、 テイクアウトのコーヒーを頼んだ。いつもは紙コップのコーヒーを小さ な茶色い紙袋に入れて渡してくれるのだけれど、この日、若いウェイト レスは熱いコーヒーをなみなみと注いだ紙コップを私に手渡しながら、 「これを両手で持っていれば温まるわよ」と笑った。 別のある日の夕方、なんとなく甘いものが欲しくなって仕事帰りにこ の店に入り、小さなアップルパイを、やはりテイクアウトで注文した。 代金2ドルを払おうとサイフを開くと、なんと、ほとんどからっぽ。銀 行に行くのを忘れていたのだ。最後の1ドル札と小銭をカウンターに広 げる。2ドルにはやはり足りない。いつもレジに立っている大柄な男性 は、「いいよ、あるだけで」と言いながら、パイを包んでくれた。 今年2月にニューヨークは記録的な大雪に見舞われた。ブリザード (雪嵐)の前日、空は既にどんよりと曇り、かすかに雪の匂いがする よ、なんて言う人もいた夕刻。ハーレム135丁目の地下鉄駅で改札機に メトロカードを通そうとした瞬間に、背後から「ヘイ!元気だったか い?」と声が飛んできた。振り返ると、黒いダウンジャケットにニット キャップの中年男性。ポケットの中のメトロカードを探りながら、満面 の笑みで私に話しかけている。私が「元気だったよ」と答えると同時に ホームに列車が入ってきた。まだカードを見つけられないでいる男性は 「急いで!」と私に言う。改札機を通り抜けて車両に飛び乗る私に、 「良い一日をな!」という男性の声が追いかけてくる。私が「あなたも ね!」と返すと、ドアが閉まる寸前に彼が「サンキュー!」と言うのが 聞こえた。 私はこの男性に会ったことはないし、再会することも、おそらくな い。けれど、ハーレムでは時々こんな会話が自然発生する。ハーレムと は、こんな街。不便なこともそれなりにあるけれど、暮らしてみれば 日々少しずつ、その良さが染みこんでくる街。 天気予報を見ると、今は深夜で、それでも6度の暖かさ。ところが、 明日はまた雪が積もると言っている。 ****************
◆New York Black Culture Trivia 堂本かおる(フリーライター) |

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