ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia
New York Black Culture Trivia 2002.09.08
堂本かおる の 『from ハーレム』 (No.51)

「黒人ミドルクラスの葛藤」




    黒人にも当然ながらミドルクラス(中流層)が存在する。アメリカに おける黒人の平均所得は白人に比べるとまだまだ低いとはいうものの、 黒人ミドルクラスは増え続けている。黒人ミドルクラスの生活振りに は、当然ながら白人ミドルクラスとの共通点が多い。夫婦揃って会社勤 めなどをし、衣食住に不自由しないだけではなく、休暇には国内・海外 旅行を楽しむ余裕もある。子供は私立校や大学に通っている。医療保険 にも入っているし(*1)、老後の年金もある。

    *1=アメリカは個人加入制度。低所得層は加入できない

    つまり、なんの変哲もない“普通”の生活を送っている人たち。した がってアメリカの黒人を“ゲットーの困窮者”“犯罪者”または“エン ターテイナー”として取り上げたがるメディアの興味を引くことはな く、アメリカ国内・国外を問わず紹介されることは少ない。だから彼ら の生活、心情や信条、抱える問題点などはアメリカ国内ですら、あまり 知られていない。黒人ミドルクラスは黒人としての強いアイデンティ ティやプライドを持ちながらも、低所得層の黒人とは相容れない部分が ある。アメリカ人の生活形態は人種の違いと共に、所得レベルの違いに も大きく左右される。高等教育を受け、社会の中核として働く人たち と、生活保護に頼って暮らしていたり、犯罪行為に走る人々との間に溝 ができるのは当然のことだ。

    <対黒人>
    低所得層の黒人の中にも、ミドルクラスの黒人を「(黒人の)魂を (白人社会に)売った」といって嫌う人々がいる。つまり「ゲットーに 暮らす自分たちは相変わらずフードクーポン(政府配給の食料キップ) で買った安い食料品を食べ、子供の教育もままならない(*2)。スト リートにはドラッグ・ディーラーがたむろしているし、銃の撃ち合いか らいつ飛んでくるとも知れない流れ弾を恐れながら眠りにつく。同じ黒 人とはいえ、大学を出て一流企業に勤めて高い給料をもらい、治安の良 い街に悠々と暮らす白人みたいなおまえたちに、黒人の本当の姿など判 るはずもない」ということだ。それはヒップホップのビデオクリップを みても判る。ラッパーが生まれ育った地元(フッド)でロケをし、ホー ミー(地元の友人)が大量に出演しているものをたくさん見かける。(*3)  ゲットーで生まれ育った自分たちこそがヒップホップそのものなんだ、 という強いメッセージが、そこには込められている。

    *2=公立校は地区によってレベルの差が大きく、一般的に貧困地区ほど 教師の質や設備が劣る

    *3=最近作では Scarface『On My Block』が印象的

    こうして黒人貧困層からは非難される黒人ミドルクラスだが、それで も多少は“黒人の本当の姿”を知っている。たとえ本人がミドルクラス であっても、親戚や子供の頃の友人にひとりやふたり、もしくはそれ以 上、ドラッグや犯罪に走った者がいるはずだ。そういった親戚・友人と の付き合い方や援助の仕方、もしくは距離の置き方も黒人ミドルクラス の抱える問題のひとつ。

    <対白人>
     ミドルクラスの黒人は、同じくミドルクラスの白人とは微妙な関係に ある。「教育や生活のレベルは同じでも、やはり黒人と白人は根本的に 違うんだ」という思いがあるし、「自分は白人と同じか、それ以上の能 力がある」と信じてはいても、無意識のコンプレックスがある場合もあ る。けれど仕事先で机を並べている白人の同僚たちと、彼らはうまく付 き合う。それは彼らが「白人のway(物事のやり方)を知っていて、そ れに合わせているからだ」と言う。白人社会のルールに沿って仕事をす るために、白人の考え方やマナーを観察して学び、それを身に付けて対 応する。「だから黒人は白人のことをよく知っているけれど、白人は黒 人のことを知りはしない」とも言う。確かに、昼休みにオフィス街のダ イナーやデリに行くと、黒人・白人が同じテーブルで昼食をとっている 姿を見かける。同僚同士だ。ところがアフターファイブのレストランや バーで黒人・白人が同席していることはあまりない。多少は気の合う白 人の同僚と勤務中に昼食を一緒にとることは「まあ、OK」でも、自由時 間にまですることではないのだ。その一方で、白人の友人とのみ付き合 い、黒人とはほとんど交流を持たない黒人ミドルクラスも数は少ないが 存在する。

    黒人ミドルクラスと白人ワーキングクラス(労働者層)、白人プア (貧困層)の間にもまた軋轢がある。実は昔からもっともあからさまな 黒人差別を見せてきたのは上流層の白人ではなく、ワーキングクラスや プアの白人だ。「白人は黒人より優れているはずなのに、自分たちは黒 人と同じように、または黒人以上に貧しい。なぜだ!?」という妬みと 怒りが、彼らを黒人へ辛く当たらせてきた。黒人人気コメディアンのク リス・ロックもステージでこう言って客席を爆笑させたことがある。 「子供の頃、プア・ホワイト(貧しい白人)の多い学校に転校したこと がある。あいつらは最悪だ。プア・ブラックよりもプア・ホワイトのほ うがよっぽどタチが悪いぜ」

                 ・・・・・

    このように自分と同じ中流層の白人とも、労働者層や貧困層の黒人と も折り合いを付けることが難しい黒人ミドルクラスは、自分たちだけで 固まって暮らすことが多い。ニューヨークの郊外には黒人ミドルクラス のコミュニティがいくつかあるし、ハーレムの中にもミドルクラスだけ が暮らすエリアがある。彼らはしかし、その教育レベルと、そこから得 た仕事、そして経済力で、これからのアメリカ社会の中心にどんどんと 進出していくはず。その人口が増えれば増えるほど、ヒップホップも含 めたブラックカルチャーへの影響力も増すだろう。

    ****************

    ◆New York Black Culture Trivia 堂本かおる(フリーライター)
    HP: http://www.nybct.com
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書・木村怜由

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