ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia 2001.01.10
堂本かおる の 『from ハーレム』 (No.41)
「ポエトリー・リーディング」 〜言葉/魂/リズム/肉体〜
1960〜70年代にはザ・ラスト・ポエッツ、ギル・スコット・ヘロンなどが政治的な 詩をポエトリー・リーディングの形で盛んに発表した。その後、人気にかげりが見え た時期もあったものの、ヒップホップ世代がポエトリー・リーディングを始めたこと により、現在、再び盛り上がりを見せている。映画「スラム」や「ラブ・ジョーンズ」 などで取り上げられているし、アメリカではモス・デフの司会によるテレビ番組も 始まった。 ハーレムにもポエトリー・リーディングを行なっているカフェやクラブが数件ある。 そう言えば先に挙げた大物ザ・ラスト・ポエッツはハーレムを拠点にしていたし、 ギル・スコット・ヘロンも『スモール・トーク・アット125th &レノックス』という、 ハーレムをタイトルにしたアルバムを発表している。もちろん現在も若手のアーティ ストがハーレムではたくさん活動しており、彼らが自作の詩を引っ提げてステージに 立つのが、139th St. & 8th Ave. にあるシュガー・シャック・カフェだ。 ハーレムにしては洒落たインテリアを施したレストラン&バーの一角にスペースを作り、 そこにパーカッション、アフリカの民族楽器である笛、ベースというシンプルな構成の ミュージシャンがリラックスした様子で並んでいる。 そこに詩人が代わる代わる登場しては、自作の詩を詠んでいく。
アイ・ラブ・ユー!
(*1)黒人女性が何かに対して文句をつける際の激しい態度を揶揄している と、「アイ・ラブ・ユー!」を大声で何十回も叫び続ける若い詩人は、FUBUのビビッド な黄色いシャツのせいか、詩人というよりはラッパーに見える。彼のあまりに率直で ラウド(音の大きな、うるさい)な愛の告白には、司会の女性すら照れてしまった様子だ。 背が高くスレンダーなドレッドロックの男性詩人は、マイクに向かうとまず両手を広げ て素朴なアフリカン・メロディの歌を歌い、それからユーモラスな詩をアフリカ訛りの 英語で詠み出した。客席からは時々クスクスと笑い声が起る。 彼らはキャリアが長いと見えて、表現方法に長けている。このポエトリー・リーディ ングというアートは詩人としての文学的才能と、パフォーマーとしての資質の両方が 要求されるのだ。 後半に出てきた若いラティーノの女性詩人は、まだカレッジの学生だった。「ちょっと 様子を見に来ただけで、今日詠むつもりはなかったんだけど…」とつぶやきながら詩を 詠み始めた。 それは、ドミニカからの移民として苦労し続けだった母親を謳った詩だった。自然の 豊かなカリブ海の島国からニューヨークに移り住んで汚れた空気で体調を崩し、それ でも自分を育てるために働き続けた母親への愛と感謝/大都会のプレッシャーに今にも 押しつぶされそうで、みじめに見える母親への軽蔑。低賃金の労働者として一生を終るで あろう母親とは違い、ニューヨークで育ち、貧しいながらも大学に通う彼女は、母親に 対して複雑な感情を合わせ持っているのだ。 彼女はまだリーディングを始めたばかりで、その朗読テクニックはアマチュア並みだっ た。原稿を片手に小さな声で、時にはつっかえながら、とつとつと語り続けるだけ。 それでもニューヨークに暮らす移民一世と二世の感情のギャップをリアルに描いた詩は、 その場にいた誰もの心をとらえ、大きな拍手を浴びた。 ・・・・・ リズムに乗せやすい英語という言語、マイノリティゆえの日々のプレッシャー、濃厚な 愛情、そして人前で自己を表現をしたいという強烈な欲求。これらが渾然一体となって 生まれたアート・フォーム、それがポエトリー・リーディングだ。
Sugar Shack Cafe
※現在発売中のファッション雑誌『LUIRE(ルイール)』2月号にも、ハーレムの
ポエトリー・アーティストへのインタビュー記事を書いています。ぜひ、読んでみて
ください。(46ページ) ****************
◆New York Black Culture Trivia 堂本かおる(フリーライター)
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