ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia 2001.09.15
Ms. 堂本 の 『ハーレム だより』 (No.36)
ワールド・トレード・センター テロ事件 #02
私の住むハーレム150丁目の角にも今日、大きなアメリカ国旗が壁に 貼られ、たくさんのキャンドルが備えられていました。そこに暮らして いた誰かが帰らぬ人となったのです。(ウォール街では実に多くの黒人 が働いています。新聞に大きく掲載された、爆発炎上するWTCから人々 が逃げ惑う写真には、むしろ黒人の姿のほうが多いほどです) でも、こういったニューヨークの様子は日本のメディアが十分に報道 しているようなので、ここでは別の側面から今回の出来事を考えてみた いと思います。 ・・・・・ 亡くなった数千もの人たちと、その家族や友人は本当に気の毒で、言 葉も出ないほどです。特に残された遺族の気持ちは計り知れません。朝、 いつもどおりに出掛けた最愛の人が、もう二度とは帰ってこないのです。 さらに悪いことには、発見はしたものの判別不可能な遺体も多く、DNA 鑑定を待たなくてはならない家族もいます。 でも、ここで私が思うことは、メディアや一般の人々が盛んに口にし ている「まったく罪もない何千人もの人々が殺された」という言葉です。 まさにそのとおりで、犠牲者には罪はありませんでしたし、無差別のテ ロ行為は言語道断で許されるべきものではありません。でも、そもそも アメリカ合衆国(以下アメリカ)がアラブの過激派からテロを受け続け ている理由はなんなのでしょうか? アメリカが、アラブと敵対してい るイスラエルを強力に援助しているからです。ではアメリカがイスラエ ルを援助する理由は? それが自国の利益になるからです。では、そん なアメリカ政府を支持しているのは誰? そう、一般のアメリカ国民な のです。 もちろん、犠牲者のなかにはこういったアメリカ政府の姿勢に反対し ていた人もいたことでしょう。また一般人のほとんどは、実は特に強い 政治意識は持っていません。出来ることとと言えば選挙の際にきちんと 投票に行くことくらいで、国家の外交方針に一般国民が関与することは 事実上、ほとんどできません。それでも、アメリカ政府が行っているこ とにはアメリカ国民は責任があり、それが他国にどんな影響を及ぼして いるかを考える義務もあるのではないでしょうか。 私は、今回のテロの犠牲者を「アメリカがやったことのツケを、国民 が払わされたんだから仕方ない」と切り捨てているわけでは決してあり ません。ただ「まったく罪のない何千人もの人々が殺された」と、国を あげて純真無垢の被害者を装い、「だから『報復』は当たり前だ」とい う短絡的・独善的な行為に出て欲しくないのです。 では、ここまで深くこじれてしまった対アラブ問題をどう解決するん だ?と問われれば、私にも答えは判りませんし、とにもかくにも今回の 事件の犯人は逮捕しなくてはなりませんが、過剰な「報復」は絶対に避 けるべきです。 なぜなら、アメリカの意地と軍事力を使えば、かなりの「報復」が可 能でしょう。でも相手は大きなダメージを受ければ受けるほど、きっと 数年後にまた、これまで以上に大規模で凄惨なテロ行為に出るでしょう。 つまり終りのない泥試合となるのです。 ・・・・・ 一方、上記の問題とはまったく別の次元で、私自身の今回の事件への 関わり方も、かなり考えさせられました。私はアメリカ永住者ですが日 本国籍保持者ですから、つまり外国人です。「永住」と「外国人」とい う一見相反するステイタスを持つ私が、アメリカの屋台骨を揺るがす大 事件に、精神的にどこまで関わるべきなのか、もしくは関われるのか。 第2次世界大戦中、アメリカの日本人と日系人は収容所に入れさせら れました。アメリカで生まれて米国市民権を持つ二世までもが強制入所 させられたのです。今、アメリカにはアラブ系アメリカ人排斥のムード が漂っています。昔と同じことを、アメリカは今また行おうとしている のです。では、仮に明日、アメリカと日本の間でなにか問題が持ち上がっ たとしたら、私たち在米邦人はどうなるのでしょう? 昨夜7時に、今回の犠牲者を悼み、アメリカの強さと、テロへの抗議 を表すために多くの人がキャンドルを手に通りに出ました。犠牲者への 追悼、テロ反対の気持ちはあってもアメリカの強さを表現する気には当 然なれなかった私はキャンドルを持ちませんでした。ところが、一人の 女性が道行く人々に小さな星条旗のシールを配っており、それを私にも 手渡してくれたのです。急に気温が下って寒くなったその夜、小さなア メリカ国旗をセーターの袖に貼った私は実は、これで私もアメリカ人に なったのかしらん…と錯覚したのでした。 2001/09/15 ****************
◆New York Black Culture Trivia 堂本かおる(フリーライター) |

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