ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム


New York Black Culture Trivia
New York Black Culture Trivia 2000.12.12
Ms. 堂本 の 『ハーレム だより』 (No.23)

ハーレムのアパートにて
〜12月のとある週末〜




    12月初旬のある金曜日の午後2時過ぎ。 ハーレムの自宅でコンピュータに向かって仕事をしていたところ、 通りからR&Bやヒップホップ・ナンバーが延々と、 もうかれこれ30分以上も聞こえていたことに気付いた。 ふと気になり、5階の窓から通りを見下ろすと、アパートの前に白っぽいバンが止めてある。 運転席側のドアが開けてあり、そこからカー・ステレオの音が流れ出ていたのだ。 開けてあるドアの前には5人のティーンエイジャーが輪になって立っている。 全員が曲に合わせて身体を揺すりながら、なにやら楽しそうに話を弾ませている。 ちなみにこの日、外気温は摂氏3度。

    ほぼ全員がダウン・ジャケットにバギー・ジーンズ、ブーツにニット・キャップという、 若い黒人男性によくある格好。質の悪い連中ではなく、“ごく普通の高校ドロップウト”たちだ。 ある資料によると、ハーレムでの高校中退率は65%に上る。

    ・・・・・

    私が住むアパートから通りを一本渡ったところにコイン・ランドリーがある。 経営者はアフリカン−アメリカンではなくアラブ系。店の名はPeaches' n' Klean(桃と清潔)という。 もちろん造語だろうけれど、文法的には正しくない言葉で、 それが経営者が移民であることを物語っている。

    土曜日の昼頃、洗い終った洗濯物を乾燥機に投げ込んでいる最中に、誰かに名前を呼ばれた。 振り返ると、そこに立っていたのは同僚のディー・ディーだった。 彼女は背が高く、がっちりした体格のうえに、ブロンドに脱色したドレッドロックと、 いつもかけている薄い色のサングラスのせいで、かなりタフに見える。 実際、ディー・ディーはタフだ。 YMCAの子供カウンセラーとしての給料だけで18歳、13歳、5歳の 3人の子供を育てているシングル・マザー。子供に対する態度は厳しく、 YMCAでは他人の子供も、自分の子供も関係なく、大声で叱り飛ばしている。

    「何してんの! こんなところで? え? ここに引っ越してきたの?  私もすぐそこ、教会のとなりのプロジェクト(低所得者団地)に住んでるのよ」 と言いながら、私をがっしりハグするディー・ディー。 「じゃ、これからはご近所さんよね」と笑い、「これ、私の電話番号」と、 ジーンズのバック・ポケットから名刺を取り出す。彼女の末っ子の名前から取った 「チャーリーズ・エンジェル」という“社名”が刷られている。 ディー・ディーは忙しい毎日の生活の合間に、 地元コミュニティの小さなイベント開催などを手伝っているのだ。

    土曜の午後だから、コインランドリーは混んでいた。洗濯機にも乾燥機にも空きが無かった。 ディー・ディーは「仕方ない。月曜の朝一に戻ってくるしかないわね」とため息をつき、 一週間分の洗濯物を詰め込んだカートを押しながら、自宅に戻っていった。

    ・・・・・

    アパートの6階に、ミシェルという女性がふたりの子供と一緒に住んでいる。 彼女自身はおそらく30代半ばで、女の子は9歳くらい、男の子は7歳くらいに見える。 ミシェルは斜視なので、視線がどこを向いているのか判らないことが時にあるけれど、でも、 とても朗らかな性格で、階段や入り口で会えば必ず「ハーイ」と笑顔で話しかけてくる。

    ミシェルは親戚が同じアパートの4階に住んでおり、自宅とそこを頻繁に行き来する。 日曜の昼ごろ、階段の踊り場で、4階に向かう花柄のネグリジェ姿のミシェルに遭遇した。 連れている息子のほうは赤いタータン・チェックのパジャマ姿。寝起きの乱れた髪を気にする風もなく、 ミシェルはいつものように「ハ〜イ」と明るく声をかけてきた。

    実は、前々日の金曜の午後に、ミシェルの子供のうち、年長の女の子のほうが4階の親戚宅のドア・ ベルを押しているのを見た。小学校から帰ってきたばかりで、 白いブラウスとチェックのジャンパー・スカートという制服姿。 (最近はニューヨークの公立小学校も制服を導入し始めている)  5階に向かって階段を上る私に気付いた彼女は、母親に比べると幾分、 控えめな声で「ハイ」と声をかけてきた。ブレイズ・ヘアで眼鏡をかけた、 かしこそうな顔立ちの少女。ハイと私も応える。すると彼女は、やはり少し恥ずかしそうな声で “Have a nice day.”と言った。意外に思えるけれど、 これは母親であるミシェルの躾けの成果に違いない。

    New York Black Culture Trivia 堂本かおる
    HP: http://www.nybct.com
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書・木村怜由

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