ニューヨーク・ブラックカルチャーfromハーレム

New York Black Culture Trivia 2000.04.18
Ms. 堂本 の 『ハーレム だより』 (No.15)
映画『ラヴ&バスケットボール』
〜メッセージはYou Go Girl !!〜
ちなみにアメリカのYMCAは低料金の宿泊施設のほかにスポーツ・ジムとプールを備えており、 また下校後の小学生を、仕事を終えた保護者が迎えにくるまで預かるアフター・スクール・プログラム も持っている。宿題とおやつを済ませた子供たちは水泳、空手、アート、コンピュータなど、 さまざまなクラスを希望選択することになっており、そのなかに、 もちろんバスケのクラスもあるのだ。 *** 本題に戻って、映画『ラヴ&バスケットボール』。 これは女性監督ジーナ・プリンス・バイザウッドがブラック・ティーンエイジ・ガール のために作った映画だ。 映画ファンには既にお馴染のオマー・エプス演じるクインシーと、 最近ヒットした“The Best Man”や“The Wood”などに出演しているサンナ・レイサン演じるモニカは、 裕福な黒人地区に住む幼馴染み同士。子供の頃から二人揃ってバスケットボールに夢中だが、 クインシーは遊び好きで女の子にも手が早いのに対して、モニカは生真面目でバスケ一筋。 そんな二人も高校生になり、ある日クインシーは成長したモニカの美しさに気づき、 そして二人は恋人同士に…と、まぁ、ありがちな設定ではあるけれど、 特筆すべきは二人が初めてメイク・ラヴするシーン。 経験豊富なクインシーが手慣れた様子でサイフからコンドームを取り出す。 ロマンティックなシーンの流れからは不自然なほどにコンドームが強調される。 これは監督のジーナ・プリンス・バイザウッドが10代の子供たちに訴えているのだ、 メイク・ラヴの際には必ず避妊しろと。 アメリカの黒人の子供のセックス初体験年齢はかなり早く、また妊娠、 出産率も他の人種に比べると相当高い。ティーンエイジャー同士のカップルの場合、結婚はせず、 女の子が福祉の食料キップを受け取りながら、 自分の母親や祖母といっしょに赤ん坊を育てるケースも多い。もちろん学校は中退だ。 映画の中のモニカは生真面目だ。おしゃれもしないし、 クインシーと付き合うまで高校生なのにヴァージン。 カレッジに進んだあとも大学のバスケ・チームで厳しいトレーニングと競争に耐え、 恋人はもちろんクインシーただ一人。 映画を観た黒人の女の子の相当数は、モニカをスクエア・ヘッド(クソ真面目、頭が固い) だと思うだろう。 *** 一方、クインシーは元NBA選手の父親の血を引き、バスケの才能もあるが、社交術にも長けている。 だが父親の不倫が発覚した際に父親への信頼を失い、同時にモニカを捨て、 大学を中退してプロの道へと進む。 黒人家庭の多くは、先に記した事情により父親不在という問題を抱えている。 女の子にも父親はもちろん必要だが、特に男の子にとって、 やはり父親はロールモデルとして不可欠な存在だ。 なのに彼らはそれを持たないままに成長せざるを得なく、 それは10数年後に新たな父親不在家庭を生み出す一因となっている。 また黒人の少年にとってバスケット選手はスーパー・ヒーローであり、 将来なりたい職業のナンバー・ワンでもある。しかし実際にNBA選手になれるのは、 ほんのひと握りであり、またなったところで選手生命は短い。 だからこそクインシーも最初はカレッジの卒業証書を手にしてからプロに進むつもりだったのだ。 *** モニカはクインシーとの別れに傷つきながらも大学を終え、 スペインの女子プロ・バスケ・リーグの人気選手となるが、 異国での孤独に堪えかねて帰国し、会社勤めを始める。 オフィスワークはあまり性に合わないとはいえ、大卒の肩書きがあればこそ出来たことだ。 他方、NBAの人気選手として活躍していたクインシーは試合中にケガをしてしまい、 選手生命を断たれてしまう。モニカの不在中に婚約者(タイラ・バンクス)を作っていたクインシーだが、 ある夜、モニカに“愛”を賭けてのワン・オン・ワンを申し込まれる。 忘れていたバスケットへの情熱と、モニカの真摯で積極的な愛に驚くクインシー。 数年後。アメリカの女子プロ・バスケ・リーグで活躍するモニカと、 それをベンチから見守るクインシー。そしてクインシーの膝の上にはあどけないベイビー・ ガールが…。The End *** 大人が観ると、やや紋切り型で物足りなく感じる作品だが、 10代の女の子へのメッセージは溢れんばかりに詰め込まれている。 黒人の男の子は10代になると同時に暴力やドラッグにかかわる環境や事件に巻き込まれることが 少なくなく、その事態の派手さから良きにつけ悪しきにつけメディアに取り上げられることも多い。 しかしながら女の子たちがかかえる妊娠、シングル・マザーとしての子育て、福祉依存、 目的意識の欠如などの問題は人目を引くことが、ほとんどない。 監督のジーナ・プリンス・バイザウッドは、ともすれば社会から無視されがちな黒人の女の子たちに、 無防備なセックスを避け、教育を受けると同時に明確な目的を持てば、 自立した将来が必ず開けると語りかけているのだ。
New York Black Culture Trivia 堂本かおる |

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