完璧はあり得ない。でも完璧を目指す。(No.50)

完璧はあり得ない。でも完璧を目指す。(No.50)


2003.11.15

日本人と中国人を比べると、日本人は几帳面な人が多く、中国人はおおらかな人が多いように思います。
「完璧を目指す」と言う事についても日本人の考え方と中国人の考え方には一定の差があり、それが問題になるようです。

南京にいた時に、事務所にカーペットを敷くと言う事になり、カーペットを買って来ました。買って来たカーペットはロール上になっているものを必要な長さ分切ってもらったものです。
さて、実際にカーペットを敷いてもらったのですが、その敷き方が当時の私としては驚きました。

先ず、買って来たカーペットを事務所の真中に敷きます。
そうすると部屋の周囲は壁があったりして多少でこぼこしていますから「端から端までピシッと」は敷けません。中心部に置かれたカーペットと周りの壁の間に隙間ができます。
すると次にカーペットの切れ端を今度は壁にピシッとつけながら、
でも、真中に置かれたカーペットの端に合わせるのではなく微妙に重ねながら最終的には部屋全体がカーペットなのですが、
最初に置いた長方形のカーペットにはその周りの隙間に置かれたカーペットの切れ端が少しずつ重なっている
(但し、重なり部分は真中の大きな長方形の下に隠れていて表面からは見えません)と言う状態になりました。
(図を参照下さい)

私はそれから「重なっている部分を切って行くのかな?だとしたらうまく切らないとつなぎ目が汚くなるな」などと考えていると「はい!終了!」と言うのです。
一瞬唖然としましたが確かにカーペットは部屋全体に敷かれています。
重なっている部分は上にデスクを置いたりする時に多少邪魔にはなりますが
それでも下手にカットしてつなぎ目が汚くなるよりましだと思いました。

実は最初、私は自分でカーペットを敷こうと思っていました。
その方が美しく敷けると思っていましたがでもどうやって端から端まで美しく敷くか解らず困っていたのです。ですから文句をつけるのも申し訳ないと思いましたし確かに部屋全体にピシッと敷かれているカーペットを見ると「これはこれでいいな」と思ったわけです。
もし、上海で、それもお客さんが来られるような事務所なら業者に頼んで美しく仕上げてもらうでしょうが、
当時は南京でありお客さんもほとんど来ない。
また、事務所といっても社内の事務用ですから見栄えは重要ではないのでこれでもいいと思ったのです。

ところで、このカーペットの敷き方、実はとても早かったのです。
確かに重なっている部分がある。だから、実際に使用するとわずかだが不都合がある。
でも、それも「たいした事はない」と思うことができれば外見ではほとんど解らない。
業者に頼めば時間も費用もかかる。と考えて行くと、私は「こう言う考え方もあるのだ」
「これはこれでいい」と思ったのです。と同時に中国人の考え方と日本人の考え方にはこのような違いがあるのではないか?
とも思ったのです。

ある仕事をする。仕事だからちゃんとやらなければならない。その「ちゃんと」と言う意味は完璧にしなければならないと言う意味です。
日本からのお客さんの為にホテルを予約すると言う仕事があるとします。その仕事は宿泊するホテル、時期、部屋の種類、朝食付きかどうかなど全てを「完璧」にしなければなりません。
また、日本から洋服の注文が来たとします。材料から縫い方からデザイン、仕様全て日本からの指示通りに作らなければなりません。
これら一連の仕事について日本人の認識はほぼ同じでしょう。つまり、全てを完璧に行わなければならない。そして、中国人への指示も同じように完璧を要求するでしょうし、中国人もそれを理解して完璧を目指します。でも、ここでもし「完璧」と言う状態に差があったらどうなるでしょう?カーペットの敷き方のようにわずかな違いがあったらどうでしょう?
日本人は「完璧にするように要求したのに結果はいい加減だった。」と思うでしょうし、
中国人は「完璧にやったのにこの日本人はどうして満足してくれないのか?」と思うでしょう。

「完璧」

仕事はもちろん「完璧」でなければなりません。でも、この「完璧」
は人によって違うのではないでしょうか?或いはそもそも人間がすることですから「完璧」
はあり得ないのではないでしょうか?

ところで、中国で、中国語のできる総経理(日本で言う社長)職に就いて仕事をすると言う事は実際には何でも屋になることです。
総務の仕事、庶務の仕事。つまりその他に属さないすべての業務をする事になります。

本来的な仕事はちゃんとシステムがあり、日常業務の規定に従って流れますし、
何か問題があっても最優先で対処されますので「どういうやり方」かは決まっていますし
「完璧」と言うものについても取り決められているのが普通です。
でも、総務的な仕事はそれこそどんな仕事になるか解りませんしその場その場で最適な方法を採って行かなければなりません。
ですから何が「完璧」と言う事についてもその時その時で違うのです。

実際の仕事は何でもする。と言っても何から何まで自分の手で行うのは無理ですから中国人スタッフに働いてもらう事になります。
例えばデスクを購入する。と言う事を見てみると「目的に合った」デスクを探さなければならないのはもちろんですが、
その他に色だとか形と言った個人の趣味の世界の要素もありますし、
既にある事務所の他のデスクなどとのつりあいも考えなければなりなりません。
こう言う時には中国人の仕事に対する考え方。特に「完璧」の度合いについてよく解るチャンスです。

中国人スタッフは自分なりの「完璧」さで一生懸命に考えてくれて選んでくれますが、ほんのわずかな差が出ます。
それは日本人同士でもあるのですが感覚の差と言ってもいいほどの差です。これは生まれも育ちも全く違う外国人の感覚ですから仕方のない事のはずです。そして、こう言う時には日本人も「これが中国人の感覚」だと理解できるのです。でも、日常の業務。つまり「本業」ではそうは行きません。もちろん、わずかな差が致命傷になるような場合には予め準備もし、ルールや規定を細かく設定する事もできますが、すべてに対処する訳には行きません。こう言った時に「完璧」と言うものに対する感覚の差が大きな問題になります。
それも日本人とは少し違う。
話を聞けばなるほどと言いたくなくなるような場合もあります。
だけど、やっぱり違う。これでは商品にならない。と言うような問題も起きるでしょう。
そう言う場合にどうするかと言いますと、通常は「次から注意しよう」とか或いは「弁償させる」と言う事になるのでしょうが、
いずれも建設的な解決方法ではないと思います。ではどうしたらいいのでしょう?
それは先ず「人間のする仕事には完璧はあり得ない」と言う事実を先ずしっかりと認識するところから始ると思います。

私は仕事は完璧でなければならないと思っています。
でも、人間の仕事には常に完璧はあり得ないとも思っています。それも外国人と言う事で、また、実際に中国で色んな仕事をする中でその「完璧ではない状態」に「微妙な差」がある事を経験しています。
何か問題が起きた時。それもお互いの認識や理解が違う事で問題が起きた時にはこの「人間の仕事には完璧はあり得ない」と言う事が抜けている事が多いようです。解っているつもりで自分自身も注意が抜けていたと言う事もあるでしょう。そんな時に腹を立てて見ても仕方ないでしょうし、かえって逆効果だとも思います。
もちろん仕事は「完璧」にしなければなりません。
でも、その「完璧」と言う感覚に差があるのにそれを自分の「完璧度」の尺度で外国人である中国人を責めても中国人は理解できませんし反感しか生まないでしょう。
それでも、仕事は「完璧」でなければならない。
そうです。ですからこう言う時には「今回はここまでできた」と言う前向きな考え方をする事をおすすめします。
その上で、「だから、次はこの足りない部分を埋める為に全力を尽くそう」と持って行くのです。

先ず「完璧はあり得ない事」を十分認識し、そして「完璧さ」が自分の思っていたものと違う場合、そこまでやった相手を認め次のステップとして更に高いレベルを目指すようにする。
これは心の広さや豊かさが少なくとも相手より広く豊かではなければできませんし、
それ以上にビジネスの観点からそれをしている場合でない事もありますが、
私の一つのモットーである「絶対、後ろに下がらない」対処ができると思います。

人は「完璧」ではありません。だから過ちも犯します。
でも、そこから学ぶ事も大切で、次に活かさなければなりません。
その為には少なくとも今のレベルより下がってはいけませんが、
日常業務の忙しさからついついやるべき事を怠ったりして同じような過ちを繰り返してしまいます。
これではレベルが下がってしまっています。

私のやり方は時間のかかるやり方です。
でも、絶対レベルと下げない方法でもあります。
時間はかかっても確実にレベルアップして行く事を実感して戴けると思います。

人間は向上心があります。自分を更に上のレベルに上げたいと言う欲求があります。それをうまく活かす事で相手の為だけでなく自分の為にもなって行きます。
社内がこのような前向きな雰囲気になるとどんな事でも解決でき、
明るく前向きな社風となり、社業も発展して行くのではないでしょうか?
最初は8割しかできなくても、前向きな姿勢があれば次は残りの2割を「完璧」しようとする。
でも、また「完璧」ではなく残り1割が残る。そうしたらまた次に「完璧」を目指す。
この繰り返しが大切なのではないでしょうか?

「心を開く」

日本でも外国でも大切な事でしょう。自分から心を開かなければ相手は開いてくれません。
どうか、心を開いて「完璧はあり得ない」と言う前提で中国と付き合って見て下さい。
相手の「完璧」はどう言う物か理解しようとして下さい。
そうすると今まで見えなかった色んな面が見えて来ると思います。
そして、実はこれが一番大切なのですが、そのように心がけていると「自分が楽しく」なるのです。

「完璧」を目指す事の重要性は十分理解しています。でも、追求し過ぎてそこまでやった相手を認める事をせず、
責めてばかりいるともともと日中双方には理解の差があるのですからいつまでたってもお互いに理解する事ができず、
仕事はやればやるほど問題が出る。と言う事にもなりかねません。

相手を甘やかせるのではありません。それが相手の為であり自分の為になるのです。
「情けは人のためならず」
情けをかけるのでもないのですが、初めの内は情けをかけると言う気持ちでもいいでしょう。
最終的には自分の為になると信じてどうぞやって見てください。 


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YAMAOKA yoshinori

yammy@mti.biglobe.ne.jp

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