ほめるということ (No.46)
2003.06.15 何社も転職しているのでいつも新しい人間関係の中に飛び込んでいます。その中で「大切なもの」は何かといつも考えています。 「大切なもの」は色々ありますが、その中で根本となるのは「相手の立場になって考える能力」ではないかと感じています。 この能力は新しい人間関係を構築する時にも大切ですが、他のどのような場合にも大切ではないかと感じています。 例えば営業。 もし、完全に近い形で相手の立場になって考える事ができればお客さんが何を望んでいるか解るわけで営業もきっとうまく行くでしょう。同じ理由で社内においても「相手の立場になって考える能力」が重要な要素ではないかと思うのです。 色んな会社で色んな人たちに出会いました。 優しい人、優秀な人、意地悪な人。表面的には善人でも心の中は正反対な人、人をだます人、陥れる人・・・その出会いの中で先ず最初に「相手の立場になって考える能力」の大切さを感じます。 「相手の立場に立って考える」事により自分以外の人達がどのように感じ、どのように考えているかを客観的分析し、「一体何をどのように感じているのだろう」と考えます。そして小さな反応にも気をつけるようにして、どうすればいい人間関係が作れるのかを考えると「みんな自分の事を重要だと思ってもらいたいのではないか」そして、それが満たされない時に人は不快になるのではないかと思うようになったのです。 「仕事の結果を認めてもらいたい」「自分のやった事を正当に評価して欲しい」「誤解されたくない」「自分の存在価値を認めてもらいたい」「自分は偉い」「自分は誰よりも知識が多い」などなど。 人は自分はこの世界で重要なんだと言う事を自分以外の人に認めて欲しいと思っていて、それが満たされない時に腹が立ったり、相手を嫌ったり物事をマイナスの方向に持って行くのではないかと思うようになったのです。 そうだとするとこれを解決すると人は幸せな気持ちになり、みんなで協力して最大の力を発揮するのではないかと思うようになったのです。 これらを解決するのは「貴方はこの会社にとって必要な人なんです」「貴方はこの社会で重要な人なんです」「みんな貴方の事が好きです」「みんな貴方の事を尊敬しています」「みんな貴方の事を素晴らしいと認めています」と言う事を証明してあげること。そしてその証明方法の第一歩は「ほめること」です。そうすれば人は愉快になりますし一緒に力を合わせて働こうと言う気持ちになります。 もちろん「ほめる」と言っても、その目的は相手が重要なんだと言う事を証明するためですから「お世辞」や「うそ」では意味がありません。 相手をよく観察してどんな小さな事でもいいのです。相手が持っている素晴らしい点をほめてあげるのです。いえ、正確にはほめさせて戴くのです。始めは戸惑うかも知れませんが、少しずつ練習するのです。その内に解って来るのは「相手をほめようと思うと相手より心が広くなければほめる事ができない」と言う事です。 誰もが「自分は重要なんだ」と思っていてそれを周りの人にも認めてもらいたいと思っています。それは自分自身もそうなのです。他人をほめると言うのは自分より相手の方が重要だ、優秀だと認める気がして嫌な気になるのが普通ではないでしょうか?だから自分のそんな気持ちを別にして素直に相手の良さを認めると言う心の広さ、豊かさが必要ではないかと思うのです。 心の広さや豊かさはごまかす事ができません。そして、今の世の中、悪人が善人の顔をしていて善人は逆に悪人に見えたりします。同じように本当は心の狭い人が心の広い人を装っていたりします。中国人スタッフは言葉の障害があるがゆえにある意味では敏感に感じますし、中国のこれまでの歴史の教訓があるから人を判断する時にはとても慎重です。本当の意味で心の広さ、豊かさがないのにただ言葉だけでほめたとしてもすぐに化けの皮がはがれてしまいます。 中国人スタッフをほめる時にもう一つ注意した方がいいと思うのは、相手をほめると言うとまず自分を高い位置に置いてそこから見下げるように相手をほめる人がいると言う事です。 「いいんじゃないの?」とか「うん、なかなか素晴らしいじゃないですか」とか相手をほめるとまるで自分の重要さがなくなるとでも思っているかのように。そしてこのような事例は多いように思います。 中国人の本音は「お金のため、生活のため、家族のため。仕方なく日系企業で働いているし馬鹿にされても我慢している」です。 日本人は中国人を馬鹿にしていないと言うでしょう、でも、多くの中国人はそのように感じています。それは何故か?それは心の広さや豊かさがないのに中国人の上に立ち中国人を働かせているからではないでしょうか? 多くの企業でこの目で見、また、多くの中国人スタッフとの付き合いの中で体験して来た事です。 さて、私はこのような状況の中で新しい会社に入るのですが、半年ぐらいは毎日毎日自分自身を知ってもらうために行動します。 一生懸命相手を理解しようと努め、相手の重要さ、大切さを認めるように小さな事を積み重ねて行く内に少し大きな問題が発生したりします。 この時に日本側に立つのではなく、かと言って中国側に立つのではなく、あくまでも冷静に分析、判断し、的確な処理や指示が出せた時、やっと一つ目の関門をくぐる事ができるのです。 これは単に中国人スタッフをかばうと言う事ではありません。例えかばったとしてもその行為に矛盾があればやはり中国人スタッフに見抜かれてしまいます。でも、常に徹底的に「相手の立場になって」考え、相手が欲している事を把握するように努め、それを「満たす」と言う事を考え続けて行動していると時間はかかりますが必ず事態は良い方向に進むのではないでしょうか? こうやって見てくると、なんだか厳しさがないように感じるかも知れません。 厳しく指導するわけでなく「話を聴く」。「相手の立場になって」考えその人がして欲しい事である事。つまり「貴方は大切な人ですよ」とほめる。 「甘やかしてばかりではだめだ、叱るべき時には叱るべきだ」とおっしゃる方もおられるでしょう。もちろん私も上司と言う立場で部下を指導、育成する時には叱る時もあります。でも、私の経験から「自分の感情で」怒る事を除けばほとんど叱る必要はないように思います。叱る事は私も重要だと思っています。でも、もっと重要な事は人は叱ると本当の事を言わなくなると言う事ではないでしょうか? 日本の場合もそうだと思うのですが、中国の場合、前述のように、中国人スタッフの日本人に対する見方が普遍的にあります。ですから、日本人がいかに心から相手の事を思って叱ったとしても、例え直訳で通訳しても、説明不足になり、それは中国人にとっては感情的に怒られている事になるでしょう。 もともとあまりよく思っていない日本人の上司から感情的に怒られて、でも、生活のために仕事を辞めるわけに行かない。だから腹が立つけれど我慢するしかない・・・この抑えられた感情が後々に具体的行動となりストライキや時には暴力事件にと発展するのではないでしょうか? 「相手の立場になり」「相手をほめる」為に卑屈になる必要はありませんが相手と同じ立場になり、その立場で相手がどのように考えているかを親身になって考え、真剣に観察し、相手の良いところを見つけて心からほめる。 始めはぎこちないかも知れませんし、相手も不思議がるでしょう。 それでも心を込めてほめて続けて行くと次第に自分自身の心が広く、豊かになっている事に気付くでしょう。そうなれば相手も必ず解ってくれます。そして、ほめられるから嬉しい。だからもっと頑張る。そうしたらまたほめられる。もっと嬉しくなる。だからもっともっと頑張る。この好循環が回り始めるでしょう。そして、この好循環が回り始めると会社はどんどん良くなって行くのではないでしょうか? 多くの方が頭では理解していても、つい無意識に忘れてしまうと思いますので敢えてお願いします。どうか忘れないで下さい。中国人は外国人です。生活習慣も違えば考え方も反応の仕方も違います。そして、それらを乗り越えたとしてもこれまでの歴史があるので中国人が心の底で日本人に対して感じている事を感じて下さい。そうすれば答えは自然に見つかると思います。 他人をほめるには自分自身の心が広く、豊かでなければならない。 広く、豊かな心で接するとどんな問題が起きても一緒に解決して行く事ができるのではないでしょうか? これまでの私が心が十分に広く、豊かだったと言う事はないと思います。まだまだ足りないと思います。でも、少なくともそのようにあるべきだと思い、そうなる事を真剣に求めて来ました。これまで出会った中国人スタッフ達はそれを敏感に感じてくれたのだと思います。だから私の伝える事に真剣に耳を傾けてくれ、また、一緒に会社を良くする為に考え、行動して来てくれたと思います。 この段階にまで来れば私の役割は中国人スタッフの中にあって日本人と中国人の間に立ち、日中双方の誤解を解き、相互理解を作り上げると言う事ができるようになります。 私と会社のスタッフ達。これは日中双方ともにですが、第一印象から離れ、日々の業務から少しずつ私自身について理解して戴き、自然に話し合える状況を創り出した解きがやっと出発点です。 この時には例えば私に対する過度の期待。つまり、「何でもすぐに解決するかも知れない」と言う過剰信頼もなくなりますし、逆に「何もできないのではないか?ただ口だけではないか?」と言う不信感や「この人が来たら私は必要でなくなる」と言う反感も少なくなります。こう言ったプラスもマイナスもない「0」にリセットした状態になり、これからが本当の意味で会社を良くして行く出発点になるのです。 ここまで会社の状態を持って行くには「相手の立場になって」考えた結果の「ほめる」と言う事が大きな助けになってくれます。 「大きな助けになる」と言っても自分の仕事をうまく進める為にそうするのではありません。 あくまでも相手の事を想い、相手重視で相手の欠点ではなく良い点を観察し、それを見つけ出しそこに注目し、具体的な行動である「ほめる」と言う行動で表現する。 このような考え方、そして行動を周囲の人達はじっと観察していて「安心感」を与え、たとえ表面的でも「信頼」してもらったらその気持ちを裏切らないように引き続き相手を「ほめて」行く。 人は誰でも「認められたい」のです。「ほめて」もらいたいのです。そして「ほめる」為には「ほめる」対象の人より自分の方が心が広く、豊かでなければなりません。そして中国での日本人の立場は中国人の上に立つと言う事になりますから自分が「ほめられたい」「認めてもらいたい」と言う気持ちより「相手をほめる」「相手を認める」と言う気持ちを優先しなければならないと思うのです。 人は誰でも「ほめられたい」。それを上に立つ者が自分の気持ちよりも部下の気持ちを優先して積極的に部下である中国人を「ほめる」。そんな心の広さ、豊かさに人はついてくるのではないでしょうか?そしてそう言う状況を創り出す事ができれば「報告・連絡・相談」と言う「ホウ・レン・ソウ」も十分にできるようになり会社はどんどん発展するのではないでしょうか? ======================================== YAMAOKA yoshinori yammy@mti.biglobe.ne.jp http://www2s.biglobe.ne.jp/~yammy/ ======================================== 「Yammyレポート」 バックナンバー
タグ
カテゴリー:Mr.Yammyの上海レポート