ただひたすら聴く (No.45)

ただひたすら聴く (No.45)


2003.05.20

私が新しい会社に入ると、社内の反応は「不信感」と「拒絶」です。中には明らかな「敵意」をむき出し(本人は隠しているつもりでしょうが)にする人達もいます。
中国語の能力について私は何も証明を持っていないのですが、入社一日目の挨拶を中国語で行うと中国人スタッフは理解してくれます。
この時の理解は「この人の中国語は中国人と同じと言うまでは行かなくてもこれまでの日本人のレベルではない。普通にコミュニケーションできるレベルだ。」と理解してくれます。
ただ、この段階では「仕事の能力」については未知数でとにかく「何ができるのか解らないけれど、とにかく中国語を普通に話す日本人が来た。」と言う事になるのです。

自己紹介を終えて、まず最初に反応するのは日本語を話すスタッフです。
この人たちはこれまで多くの日本語ができない中国人スタッフの中にあって、数少ない日本語コミュニケーション能力を持っている人材として日本人からは大切に扱われ、中国人スタッフからは「羨望」そして「嫉妬」の的になっていた人たちです。

「羨望」と言うのは「日本語ができて日本人と直接会話ができて羨ましい。特に能力がないのに直接会話できると言う事で日本人に近い存在になっている。給料も多いしその他の待遇も優遇されている。」と言うもので「嫉妬」と言うのは「仕事がそれほどできるわけではないのにただ日本語が少しできると言うだけで、日本人におべっかを使い、お世辞を言って、日本人に優遇されている。」と言うものです。

どの会社でもそうでしょうが、新入社員、それもある程度の年齢の新人が入社して来たら「この人は何をしに来たのだろう」と思います。そして、それが中国にある日系企業に私が入った場合には「中国語のできる日本人が来た。それも普通にコミュニケーションする事ができる。果たして敵か味方か・・・」となるようです。

大抵の企業ではこれまでにも同じような事があったでしょう。
中国語ができるかどうかは別にしても多くの「新人」が来て、色々やったと言う経験を持っています。そして、「新人」が来て状況が良くなった。と言う経験のある企業には普通私は呼ばれません。これまで「新人」を導入したけれどうまく行かなかった。と言う企業に導入される事がほとんどです。ですから、初めの反応を更に詳しくご説明すると:

・日本語のできない中国人スタッフ達;
「中国語ができるから我々の話を聞いてくれる可能性がある。でも、所詮は日本人。日本側のスパイかも知れない。下手な事をしゃべる事は危険だ。」
・日本語のできる中国人スタッフ達;
「この人が来たら自分の仕事がなくなる。そうなると今受けている優遇もなくなる。日本人だから丁重に扱わなければならないけれど敵である可能性が高いから慎重に付き合わなければ。」

或いは;

「この日本人が入社すれば自分達の仕事は必要なくなる。日本側は私達を解雇する為にこの日本人を入社させた。(心の奥底の想い)」

このように「不信感」「拒絶」「敵意」の真っ只中に入って行くのですが、事前に日本側から会社の問題点を指摘されている私は早速問題点の解決に着手します。ただ、この時に普通に問題点を指摘し、改善案を出していては中国人スタッフに「あぁ、この人もこれまでの人と同じだ。入社して早々で我々の事情も解らず実績を出し日本側に認めてもらうために必死になっている。」と思われて表面的には協力してくれるでしょうが心から積極的には動いてくれません。そこで中国語でコミュニケーションするのですがその際、最も重要なのは「聴くこと」です。それも自分の意見などはさておいて「ただひたすら聴くこと」です。

「入社したばかりで解らないので教えて下さい」
「これはどうしてこうなっているのですか?」
「この方法はどんないきさつがあって今の方法になったのですか?」

つまり中国人スタッフに「我々中国側の事情を知らずに発言している」と思われないようになるまで聴いて聴いて聴きまくります。

この作業をしていると、素直に喜んで色々教えてくれる人もあれば、表面的には教えてくれるのですが「何を考えているのか解らないから慎重に慎重に・・・」と対応してくれる人もいます。
実はこの作業を通じて発言内容だけでなく態度その他を観察し、中国人スタッフが何を考えているかを把握して行くのです。そして、こちらから改善提案を出す事ですぐに効果が出るようなもの。それもちょっとしたアイデア提案をします。その時には会話の中で問題点を明確化しそれを解決するにはどうしたらいいだろう。と一緒に考え、図を書きながら考えを一緒にまとめて行き、最終的に「この方法だったらよりみんなの為になる」と言う方法を導き出します。

ポイントは「同じ立場になる」「一緒に考える」「アイデアは一緒に考えた結果であり一緒に出したアイデア」だと言うようにします。

もっとも多くの場合、「アイデア」は私が出したものである事は十分に解ってくれるのですが、それでも「いいえ、貴方の出したアイデアです。」と嫌味ではなく心から他の人にも解るように事あるごとに言います。
このようにすればこのスタッフは新たな変化であるアイデアがみんなの為になり、みんなが喜んでいると言う事実に嬉しくなり、そのアイデアを途中で止めたりしませんしどんどん活用してくれます。
たまに活用しない時などもありますが、その時には相手を傷つけないようにそっとフォローを入れます。
「どうしてあれを使わないんだ」と責める口調で言うのではなく、「あれ?この間のあれは使っていますか?こう言う時にあれを使えばいいんですよ。こうやって。ほらねみんなが助かるでしょう?」

実際には一番助かるのは本人自身であるようなアイデアである事も重要です。
誰でも変化する事に抵抗します。これまで自分のやって来た方法に誇りも持っています。その自尊心を傷つけないように、しかも自分が一緒に考えた方法でみんなが便利になり自分も助かるのだから心の奥底では「新しい方法になって手間がかかる」と思っていても最初は嬉しくて、そして、使って行くうちに徐々に便利さを理解して新しい変化であるアイデアはその企業に定着して行きます。

定着した後にもたまには機会を見つけてアイデアの素晴らしさを掘り起こすと言う作業も必要なのですがそれはもっと後の事。入社当時はこのような「小さな変化」を行います。

もう一つ効果的なのは日本人についての説明です。 日本人からある指示があったとします。それについて「今の指示の最終目的は何だと思いますか?」と聞きます。中国人スタッフは一生懸命に説明してくれるでしょう。それを一つ一つうなづいて「正しい」と認めた後に、「そうなんですよ。今、貴方が説明してくれたように日本人の最終的な目的は〜〜なんです。この最終目的を達成する為に先ほど貴方にこう言う指示を出したのです。」 実際には日本人の最終目的は理解してくれていない事がほとんどです。ただ単に指示をそのまま受け取って言われた事をすると理解しているのですが、それを敢えて「貴方は正しい」と認めた上で「まとめ」の形で日本人の指示を説明します。常に最終目的を明確にした上で、そこに行き着くまでの手段としての指示である事をまとめ直します。 相手の立場に立ち、相手の自尊心を傷つけないようにし、相手に解らないように助けて行く。 このようなことを毎日探して行う事で次第に私と言う人物を「敵ではない」と証明して行くのです。 中国人は日本人より人を本当の意味で信頼するのに時間をかけると言います。 中国人に本当の意味で信頼してもらうには何十年もかかるとも言います。 ただでさえそうなのに私の場合には「不信感」と言うマイナスの状況から始まる訳ですからそれこそ細心の心配りが必要ですし、更には決してにせものではない。心からの発言、対応にしなくてはなりません。その為にはもちろん自らが本当に相手の事を想っての発言、行動でなければすぐにばれてしまいます。 言葉の問題があると言う事は、言葉以外のコミュニケーションの道具。例えば表情とか態度について非常に敏感になると言う事です。 上述の事柄を表面的にまねても効果はないばかりではなく逆効果になる事もあり得ますのでその点もとても重要な事です。 例えばホテルの予約と言う仕事の場合、ミスを防ぐ為にFAXなど書面でホテルに連絡し予約内容確認も書面で取る。と言ったちょっとした業務改善を行う時にはそれを担当している中国人と先ず問題点を話し合います。 この際にはもちろん「聴く事」に重点をおいて、担当の中国人が普段どのように考えているかを聞き出します。 そして、もし、何らかのミスが発生したらどうなるかについても話し合います。もし、電話で予約をしていてお客さんがホテルに着いてチェックインする時に何かの間違いで予約がなかったらどうしますか?と具体的に質問します。 そしてそのような事が発生したら最終的に会社の信頼がなくなる事になり、そうなればそのお客さんは離れて行ってもう二度と戻って来ない可能性もある事を一緒に考えて行きます。 この際、決して「説明する」と言う立場を採らない事が重要です。 「説明する」と言う考えを持つだけで「貴方は解っていないから私が貴方に教えてあげる」と言うように、自分の立場を相手より上に置いているからそれを中国人は敏感に感じてしまうからです。 さて、一緒にこの仕事の重要性を再確認したらミスを防ぐ為の方法は大抵簡単な事です。だた、これまでの方法よりも若干手間がかかります。この場合には少し手間をかけて確認の為に書面で連絡をする。と言う事になるのですがこれをもし最初から「予約確認の為に書面で連絡するように」と指示をすると中国人は反発するでしょう。 「これまでの方法で問題ないのにどうして手間がかかる方法を一方的に押し付けるのだろう」と。 こうなってしまうと改善する事なんてとてもできません。 改善するには新しい方法を積極的に行って行くと言う事ですがそれには実際に行う人の理解と「自発性」が重要です。いやいや服従しても効果はあまり期待できません。 最終的に改善した方法を実際にそれを行う人が「自発的」に行う事ができるように配慮する。しかも一つの仕事の目的を十分に理解して自分の仕事に誇りを持てるようにすれば改善活動はスムースに進める事ができますし、仕事の重要性を理解してもらえば確実に仕事を行うように「自発的」に「知恵」も出してくれるようになります。 「中国人はこれだから・・・」と不平不満を言うより、そのように仕向けている自分自身に気付き「聴く事」の重要性をご理解戴くと仕事はどんどん面白くなるのではないでしょうか? ======================================== YAMAOKA yoshinori yammy@mti.biglobe.ne.jp http://www2s.biglobe.ne.jp/~yammy/ ======================================== 「Yammyレポート」 バックナンバー

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