高貴な想い (No.2-4)

高貴な想い (No.2-4)



以前は、訪中する日本人はそう多くなく、飛行機に乗るとたいてい知り合いがいたものですが、最近は訪中する日本人が多く、
飛行機だけでなく、日本人料理屋さんでも知り合いに会うことはまずなくなりました。

そんな昨今ですが今日(2006年8月27日)、以前の上司にバッタリ会いました。
関空のチェックインカウンターで見かけたのですが、飛行機の搭乗口にあるカフェテリアで朝食をとっているとこちらに歩いて来られたのです。
私が会社を辞めたのが天安門事件のあった1989年ですから、17年前に会ったのが最後です。

この上司は今年66歳になられたとのこと。
若い頃中国におられたので中国語は全く問題なし。どちらかというと日本語は日本人らしくなく聞こえる。そんな方です。

「今は大変だろう。民族の問題になっているから。」
去年の反日デモ、そして今年の夏の小泉首相の靖国神社参拝の影響についてこう問いかけられました。
私は「ええ、まあ」といい加減に答えてしまいました。

今の私は工場管理といってもかなり小さい工場で、そんな国と国との問題はあまり影響がないように思いますし、周りにいる日本人もあまり気にしているようには見えないのですが、さすがにこの方は、これまでの人生を日本と中国の間に立つことに徹して来られたので今回の影響について「肌」で感じておられるのでしょう。
さらに、「最近の日本人は考えが薄っぺらになっているから...」と続きます。

私、こう言われてはっとしました。
自分自身を振り返ると確かに考えが薄っぺらになっていました。
日本と中国。その間に立って何かをすること。それは表面的なそれこそ薄っぺらな考えではとてもできるものではありません。
私自身、最近は、目の前の状況に惑わされて、ものごとの本質を見る目を失っていたように思います。

「環境保全を考えなくてはいけない。」
現在の中国の状況についてこのように憂慮されています。

「日本の発展してきた状況、特に公害についてよく知っているはずなのに、やはり同じ道をたどるのですね。人間ってそんなものなのですね。」

中国は年々発展しています。それはもちろんいい面もたくさんあるでしょう。
でも、工業面では工場から吐き出される排水や煙などの公害が大きな問題となっている。
そして、それは日本とか中国とかいう国の問題を離れてもっと大きな「地球の環境」という問題であること。
ご自分が中国の経済発展に尽くしてきたという思いもあるのでしょうが、
中国が現在直面している公害問題についてまるで自分のことのように憂慮されていました。

そして最後に、
「定年後、砂漠に木を植えている日本人がいる。素晴らしいことですね。」

私などとは考えていることのレベルが天と地ほどの差があります。
きっとこの方は今後この方なりに何らかの貢献できることをされるのでしょう。

「もう少しで残留孤児になっていた。」
「ソ連がやってきたので一人ではだしで逃げてきた。」
と、戦後の日中関係をご自身で体験されてきた方。
中国人と同じ中国語を駆使し、中国の問題点について堂々と中国人に「だから中国はだめなんだ」と説教をされていた方。

今、中国には多くの日本人がやってきます。
そして会社を作ったり工場を作ったりするのですが色んな問題にぶつかり「だから中国はだめなんだ」とか
「だから中国人はだめなんだ」と愚痴や文句ばかり言う人が多くいます。
確かに中国ではいろんな問題はあります。それは外国だから。日本ではないから。

そんな愚痴や文句を今の私は「愚痴や文句を言っても何の解決にもならない。
そして、それは日本人が中国のことを知らないから」と日本人の問題を指摘してしまうのですが、
この方なら、きっと違う方法で問題を根本的に解決してしまうのでしょう。
日本人が中国で何かをして、問題に突き当たった時、具体的な解決方法を示してくれるでしょう。
それはこの方の人生そのものが日中の間で生きて来られたのだから。

このような素晴らしい方が、今、誰かの役に立っているのか?本当に日中間の役に立っているのか?とても気になりました。
私が今いる工場でも、この方がたとえ短い時間でもアドバイザーとして来て下さればどんなにいいだろうと思いました。

多くの日本人が中国に来ている。そして本当に普通の人がやって来る。その人たちの多くには「中国や中国人を利用する」
という下心があり「自分だけが良ければそれでいい」という利己主義のみで動いているように思います。

利益はもちろん大切です。儲けがあるからこそ中国にも来るのでしょう。でも、同時にお金が全てではないし、
人を動かすのはやはり「心」だと思います。

「高貴な想い」
この方にはそれがあるように思いました。
そしてそれはこれまでの人生経験で身につけられた日中間で何かをするときの心得のように感じました。

それにしても時の経つのは早いものです。
そして人生はあまりにも短い。
生きることの意味を深く考えることになったとても大切な再会でした。


Yammy
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YAMAOKA yoshinori
yammy@mti.biglobe.ne.jp
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