第三回 浦東を描け!(上)
「それでは授業を始めようか」 土曜の朝、鳥のさえずりが聞こえる 田園のアトリエで、静かに授業が始まりました。 先生は、筆や絵の具の準備をしながら、 最初の課題を何にしようかと考えているようです。 すると 「あのさ、俺は伝統的な農民画ってあまり好きじゃないんだよね」 はい? 「伝統的な農民画は、今まで皆が描いてきたからなぁ。 コトー、我々は農民画の概念を突破しようじゃないか。うん、 まずは現代的な都市を描こう。浦東にしようか!」 本当はすごーく伝統的な 農民画を描きたかった私ですが、 いつの間にか、"我々"にされてしまい、 私の記念すべき一作目は「現代都市・浦東」になりました。 果たして農民画で浦東を描けるものなのでしょうか・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて。 先生は、 ・手前に上海ヒルズ、金茂ビル、テレビ塔を配置し、絵の中心とすること。 ・「神の視線」で天空から俯瞰的に描くこと、 ・背景の建物はできるだけ重なり合うようにたくさん描くこと。 ・・・だけ指示すると、 友達に電話したり、本を読んだり、 居眠りしたりと、なかなか忙しそうなご様子。 私は先生が建物や人物の参考にと渡してくれた 農民画の画集を見ながら、とにかく下書きを描くことにしました。 農民画は、模造紙に鉛筆で下書きするところから始めます。 そして、先生が私にくれた模造紙の大きさは なんと60cm×50cm。 こんなビッグな絵は初めてです。 先生になぜ(最初なのに)こんな大きなサイズなのか と聞くとシンプルな答えが返ってきました。 「小さい絵、きらい」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 半日かけて下書き終了! 先生の修正のあと、清書に入ります。 清書は細めの水性ペンを使い、鉛筆の線はすべて消しゴムで消します。 清書が終わった状態の写真がこれです。 先生の指示通り、 正面に浦東の3つの建築物を配置、 高さを変えてアクセントを 出しました。 実際は一番高い上海ヒルズが 金茂より低かったり、 実際の配置とも 少し異なるのですが、 金山農民画はイメージで 描くものなので 「これでOK」なのだそうです。 また、ビルの手前にちょっと 飛ばした鳩を大量に増やしたり、 空に浮かぶ雲を上海ヒルズの てっぺんの穴に通したり(!)と、 先生の奇想天外な修正も 入っています。 下絵が完成したら、この上に 和紙を重ねて鉛筆でなぞります。 このタイミングの鉛筆線は薄め なので、写真ではちょっと 見えにくいですね。 実にこの作業までに、下絵の鉛筆書き、下絵の清書、 和紙への鉛筆書き、と同じ線画を3枚描いたことになります。 一日で全部やったのでちょっと疲れました。 ここで初日が終了しました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて、晩御飯は「農家菜」(ノンジャーツァイ)と呼ばれる農村料理です。 新鮮な鶏や採れたての野菜、写真のかまどで炊いてくれた釜飯など、 本当においしい! 特にこのかまどは昔は 上海でも見られたそうですが、 今はすっかり少なくなって しまい、当時を知るひとたちは この釜飯のおこげを大変 懐かしがって食べるそうです。 また、このかまどには 絵が描かれていますが、 この絵と農民画の風格は どことなく似ていると 思いませんか? そうなんです。 実は農民画はこうした かまどに描かれた絵や、 剪紙と呼ばれる切り紙など、 昔からの民間芸術の要素を 巧みに取り入れているのです。 農民画のルーツになった かまどとおいしい料理、 そして温かい紹興酒。 先生と楽しく語らいながら、 夜は更けていきました。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ さて、2日目。いよいよ色を塗っていきます。 塗装には中サイズの筆とポスターカラーを使います。 金山の農民画家は大抵馬利ブランドのポスターカラーを 使っていますが、特に理由はないみたいです。 ポスターカラーは水で薄めて使いますが、 顔料;水の比率は7;3くらい。たっぷり筆にカラーをふくませて、 ポタ・ポタ・ポタ・・・と落ちるくらいに調整します。 実際塗ってみるとわかりますが、比率がいいと 筆運びが非常にスムーズです。逆に比率が悪いと、 色が薄くなったり、筆運びがうまくいきません。 色は大きな面積の部分から、左から右へ (左から塗ると、塗った部分をこすってしまうので) と塗っていきます。こうして一日経った状態の写真がこれです。 まだまだ農民画には・・・見えませんね。 完成への道のりは遠いようです(つづく)〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
コトータケヒコ
上海在住の会社員。仕事の傍ら週末に金山に通い、
農民画家・陸永忠に師事。09年5月金山農民画院より
外国人第一号の金山農民画師に認定。日本農民画協会会員。
ホームページ(移転しました):http://nominga.net
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カテゴリー:金山農民画家への道